蓄積した専門性を基盤に、未知の領域への橋を架けるコーチング体験談
私は40代後半、長年大手メーカーの研究開発部門で、ある特定の技術分野を深く探求してまいりました。幸い、その分野では一定の成果を上げ、社内外での評価も得ておりました。専門家としての自負もあり、自身のキャリアは順調に進んでいると感じていた時期もありました。
コーチングを受ける前の状況と悩み
しかし、近年、技術革新のスピードが加速し、自身の専門分野だけでは今後の変化に対応できないのではないかという漠然とした不安を抱くようになりました。長年培った知識や経験が、この先の時代においてどれだけ価値を持ち続けるのか、あるいは、自身の「伸びしろ」がこの分野に限られてしまうのではないかという懸念がありました。
また、組織内での役割も変化しつつあり、純粋な研究者という立場から、チームを率いるマネジメント業務の比重が増えていました。これまでの「深掘りする」というスタイルとは異なる能力が求められる中で、自身のアイデンティティが揺らぐ感覚もありました。自身の経験をどのように新しい役割や、さらには自身の専門分野の外に活かせるのかが見えず、将来に対する不確実性と閉塞感を同時に感じていたのです。
コーチングを受けるきっかけ
このような状況下で、自身の内面で悶々と考えているだけでは前に進めないと感じていました。書籍を読んだり、社外の勉強会に参加したりもしましたが、情報が増えるほど、かえって自身の状況をどう捉え、どこへ向かえば良いのかが分からなくなっていきました。
ある時、知人からコーチングという手法について聞く機会がありました。一方的なアドバイスではなく、対話を通じて自分自身の中から答えを見つけ出すプロセスだと知り、まさに今の自分に必要なのは、誰かに答えをもらうことではなく、自身の内側を深く掘り下げ、整理することではないかと直感しました。自身の思考を整理し、言語化するサポートを得たいと考え、コーチングを受けることを決意いたしました。
コーチングへの期待
コーチングを受けるにあたっては、まず自身の抱える漠然とした不安の正体を明確にしたいという期待がありました。そして、長年培ってきた自身の専門性や経験が、どのような形で今後のキャリアや人生に活かせるのか、具体的な方向性を見出したいと考えていました。また、将来への不確実性を乗り越え、主体的に変化に対応していくための内的な強さや視点を得られることも期待していました。
コーチングのプロセスと具体的な様子
コーチとのセッションは、私の話をじっくりと傾聴してくださることから始まりました。初回のセッションでは、自身の現状や抱えている不安を、言葉を選びながら話しました。漠然としていた感情や考えを言語化していく過程で、自身の悩みが単なる「技術の陳腐化」ではなく、自身のアイデンティティや将来への貢献方法に関する問いに深く根差していることに気づきました。
特に印象に残っているのは、コーチからの「あなたがこれまで培ってきた専門性から、『技術そのもの』を取り除いたときに、何が残ると思いますか?」という問いかけです。この問いに対し、私は自身の分析力、複雑な課題を分解して考える力、粘り強く探求する姿勢など、分野横断的に通用する自身の能力や強みに気づかされました。自身の専門性を単なる「特定の技術知識」としてではなく、より汎用性のある「思考様式」や「スキルセット」として捉え直す視点を得たのです。
また、「もし時間やお金、周囲の評価といった制約が一切ないとしたら、あなたはどんなことに情熱を燃やし、どのような課題解決に貢献したいですか?」という問いかけは、私自身の奥底にある価値観や本当にやりたいことについて深く考えるきっかけとなりました。これまで「専門家としてこうあるべき」という無意識の制約にとらわれていた自分に気づき、自身の意外な関心領域や、社会に対する貢献意欲に改めて向き合うことができました。
セッションを重ねるにつれて、当初の漠然とした不安は具体的な問いに変わり、それに対する自身の考えや可能性を探求する意欲が芽生えていきました。コーチは常に穏やかで、私がどのような考えや感情を話しても、否定することなく受け止めてくださいました。その安全な空間があったからこそ、自身の内面にある正直な思いや、普段は目を向けないような感情にも向き合うことができたと感じています。
得られた成果と変化
コーチングを通じて得られた最も大きな成果は、自身の専門性に対する新たな捉え方と、それに基づいた具体的な行動への一歩を踏み出せたことです。自身の知識や経験を要素分解し、異なる文脈で再構成するという視点を得たことで、これまでは全く関連がないと思っていた領域と自身の専門分野との間に「橋を架ける」可能性が見えてきました。
具体的には、自身の持つ分析力や課題解決能力が、新しいテクノロジー分野や、社会課題解決の領域でどのように活かせるのかを具体的なテーマとして設定し、情報収集や関係者へのコンタクトを始めるようになりました。また、マネジメント業務に対しても、単なる役割の変化としてではなく、自身の知見をより広く組織に還元し、新しい価値創造に貢献する機会として前向きに捉えられるようになりました。
内面的な変化としては、将来への漠然とした不安が軽減され、未知の領域を探求することへの好奇心や意欲が高まりました。完璧に準備ができてから行動するという思考から、まずは小さく行動を起こし、そこから学びを得て次に繋げるという思考へと変化しました。自身の可能性を限定していたのは、他ならぬ自分自身であったことに気づき、自身のキャリアをより主体的に、創造的にデザインしていこうという意識が芽生えました。
コーチング体験後の影響
コーチングを受けた経験は、その後の私の仕事や人生に多大な影響を与えています。以前は自身の専門分野という「点」で物事を捉えがちでしたが、現在は自身の経験・知識を「線」や「面」として捉え、様々な領域と結びつけて考えることができるようになりました。これにより、部署内外での新しいプロジェクトに積極的に関わるようになったり、自身の知識を異なる分野の人々に分かりやすく伝える試みをするようになったりしました。
キャリアに対する視野が広がり、日々の業務の中にも新しい学びや挑戦を見出せるようになりました。これは仕事だけでなく、プライベートにおいても同様で、これまで関心がなかった分野の知識を学んだり、新しいコミュニティに参加したりと、積極的に自身の世界を広げています。変化を恐れるのではなく、変化の中に機会を見出し、主体的に関わっていく姿勢が身についたと感じています。
これからコーチングを受ける人へのメッセージ
もしあなたが、私のように、これまでのキャリアや人生で一定の成果を上げつつも、この先の方向性が見えず、漠然とした不安や閉塞感を感じているのであれば、コーチングは非常に有効な手段となり得ると感じています。
コーチングは、誰かに正解を教えてもらう場ではありません。しかし、優れたコーチとの対話は、自分一人では気づけなかった自身の内面の声や、凝り固まった思考パターンに気づかせてくれます。自身の強みや経験を多角的に捉え直し、無限に広がる可能性の扉を開く手助けをしてくれるでしょう。
漠然とした不安を抱えている状態は、エネルギーを消耗させ、行動を停滞させてしまいます。しかし、その不安に丁寧に向き合い、自身の内面を探求することで、それは探求心や成長へのエネルギーへと転換される可能性があります。コーチングは、その転換を力強くサポートしてくれるはずです。自身の将来に主体的に関わりたいと願う方にとって、コーチングは自身の内なる羅針盤を見つけるための、価値ある投資になるのではないでしょうか。