専門知識を「対話の力」に変え、周囲との協調関係を築いたコーチング体験談
コーチングを受ける前の状況と悩み
私は、IT企業のR&D部門で長年専門技術者として勤務しており、特定の技術分野においては深い知見と経験を蓄積してきました。しかし、どれだけ技術的に優れたアイデアや提案であっても、他部署のビジネスサイドのメンバーや、必ずしも私の専門分野に詳しくないプロジェクトマネージャーにその価値を伝えることに、常に難しさを感じていました。
私の説明は、どうしても技術的な詳細に偏りがちで、相手が知りたい「それがビジネスにどう貢献するのか」「なぜ今、この技術が必要なのか」といった視点からの説明が苦手でした。結果として、会議では議論が深まらず、提案が理解されないまま頓挫したり、プロジェクト推進に必要な他部署からの協力やリソースが円滑に得られなかったりすることが頻繁に発生しました。
社内での評価は得ているものの、自身の知識や情熱が組織全体に十分に活かされていないという感覚があり、もどかしさや、どこか孤立しているような感覚を抱えていました。
コーチングを受けるきっかけ
このような状況が続く中、特に重要視していた社内プロジェクトにおいて、技術的な優位性にも関わらず、関係部署の理解と協力を得られずにプロジェクトが停滞するという経験をしました。この出来事が、私に自身の「説明力」や「周囲を巻き込む力」に対する明確な課題意識をもたらしました。
ちょうどその頃、知人からコーチングを受け、自身のコミュニケーションスタイルが大きく変化し、仕事が円滑に進むようになったという話を聞く機会がありました。従来の研修や書籍による知識習得だけでは超えられなかった壁を、対話を通じて乗り越えられたというその話に強く惹かれ、私もコーチングを試してみようと決意しました。
コーチングへの期待
コーチングを受けるにあたり、私が最も期待したのは、自身の持つ専門知識を、どのようなバックグラウンドを持つ相手に対しても、分かりやすく、そしてその価値が伝わるように話せるようになることでした。単に専門用語を使わないという表面的な技術ではなく、相手の立場や関心事を理解し、共感や協力を引き出すような、より深いレベルのコミュニケーション能力を習得したいと考えていました。
また、会議やプレゼンテーションといった形式的な場面だけでなく、日常的な対話や連携においても、他部署や多様なバックグラウンドを持つ人々と円滑な関係性を築き、建設的な協力体制を自然に作れるようになることを期待していました。
コーチングのプロセスと具体的な様子
私のコーチは、非常に穏やかで、私が話す内容に深く耳を傾けてくださる方でした。セッションはいつも、私の現在の状況や、最近あった具体的な出来事について話すことから始まりました。
特に印象に残っているのは、私が特定の状況でのコミュニケーションの難しさを説明した際に、コーチが「その時、相手の方はどのような表情をされていましたか?」「あなたの言葉は、相手にどのように響いたと想像できますか?」といった問いかけをされたことです。私はそれまで、自分の話したい内容や、いかに技術的に正しいかを話すことに終始しており、相手が私の話をどのように受け取っているのか、相手の視点に立って考えることをほとんどしていなかったことに気づかされました。
また、具体的な会議の場面を想定し、コーチに相手役をお願いしてロールプレイングを行ったセッションも非常に効果的でした。私がいつものように説明を始めると、コーチは相手役として、私が普段感じるような「専門的すぎて分からない」「それが自分たちの部署にどう関係するの?」といった反応を示されました。その経験を通じて、自分のコミュニケーションスタイルが、無意識のうちに相手との間に壁を作っていた可能性を肌で感じることができました。
セッションを重ねる中で、私は自身のコミュニケーションにおけるいくつかのパターンや、相手に対する無意識の前提に気づいていきました。「分かりやすく伝える」ことの定義が、単に情報を整理することではなく、「相手の理解の枠組みや関心に寄り添う」ことであるという重要な視点を得ました。そして、セッションで気づいたことを実際の職場で試し、その結果を次のセッションでコーチと振り返るというサイクルを繰り返しました。うまくいかなかったこともありましたが、コーチは決して否定せず、何が学べたか、次は何を試すかを問いかけてくださり、常に前向きな姿勢で取り組むことができました。
得られた成果と変化
コーチングを通じて、私のコミュニケーションスタイルは大きく変化しました。一方的に説明するのではなく、話す前に相手の立場や関心事を考慮する習慣が身につきました。セッションで学んだ「相手の理解度を確認しながら話を進める」「たとえ話や具体的な事例を用いて説明する」といった工夫を意識的に取り入れた結果、私の話に対する周囲の反応が明らかに変わりました。
以前は難色を示されることが多かった他部署のメンバーからも、質問や相談が増え、より建設的な対話ができるようになりました。会議での発言内容が以前よりも深く理解され、自身の提案に対する共感や協力が得られやすくなったことを実感しています。停滞していたプロジェクトも、関係者との密なコミュニケーションと協力を通じて、再び動き出す兆しが見えてきました。
自身の専門知識が、単なる技術論としてではなく、組織全体の目標達成や課題解決に貢献できるのだということを、具体的な成果を通して実感できたことは、大きな自信に繋がりました。
コーチング体験後の影響
コーチングを受けた経験は、仕事における私のスタンスに深い影響を与えました。以前は専門分野に閉じこもりがちでしたが、今では組織内の多様な人々とのコミュニケーションを積極的に図るようになりました。人間関係が円滑になったことで、仕事を進める上でのストレスが軽減され、全体のモチベーションも向上しました。
また、後輩や若手メンバーへの指導においても、単に正解や知識を伝えるだけでなく、相手が何を理解していて、何に困っているのかを丁寧に引き出し、相手のペースに合わせて伝えることを心がけるようになりました。これは、コーチングセッションで私がコーチから受けた関わりそのものであり、自身の成長が周囲への貢献に繋がることを実感しています。
自身の専門性と、コーチングで培った対話の力が結びつくことで、プロフェッショナルとしての可能性が広がったように感じています。
これからコーチングを受ける人へのメッセージ
私のように、特定の分野で深い知識や経験をお持ちでありながら、それを他者に効果的に伝え、周囲を巻き込むことに課題を感じている方は少なくないかもしれません。あるいは、専門性が高まるにつれて、知らず知らずのうちに自分の視点に閉じこもってしまい、他者との間に壁を感じている方もいらっしゃるかもしれません。
コーチングは、そのような状況を打開するための非常に有効な手段だと、私の経験を通して強く感じています。コーチは答えを教えてくれるわけではありません。しかし、適切な問いかけと傾聴を通じて、自分自身の内面や、他者との関わり方における無意識のパターンに気づかせてくれます。そして、その気づきを行動に移し、実践を通じて変化を促してくれます。
もしあなたが、自身の持つ知識や経験を、より多くの人々と分かち合い、共に目標を達成していくことに難しさを感じているならば、ぜひ一度コーチングを検討してみてはいかがでしょうか。それは、単なるコミュニケーションスキルの習得に留まらず、自身の可能性を広げ、より豊かなプロフェッショナルライフを築くための一歩となるはずです。