昇進後の戸惑いを乗り越え、新しい役割で自信を確立したコーチング体験談
新しい役割への期待と、拭えない戸惑い
私はIT企業で部門のリーダーを務めております。数年前に昇進し、以前担当していた専門分野とは異なる、より広範な領域を統括する立場となりました。プレイヤーとして、自身の専門性を深め、目標を達成することには自信があり、それが評価されての昇進でした。しかし、新しい役割に就いてから、これまでのやり方が通用しない壁にぶつかり、自信を失いつつありました。
以前は、課題に対して自分で深く掘り下げ、解決策を導き出し、実行まで責任を持って完遂するというスタイルで成果を出してきました。しかし、リーダーの立場では、関わる範囲が格段に広がり、自分一人で全てを把握し、判断することは物理的にも精神的にも不可能でした。チームメンバーに任せる必要性を感じつつも、どこまで任せて良いのか、どうすれば彼らの力を最大限に引き出せるのかが分からず、結果として細部に口を出してしまったり、重要な判断を抱え込んでしまったりすることが増えました。
チームのパフォーマンスは伸び悩み、メンバーとの間にもどこかぎこちなさを感じるようになりました。「リーダーとして、もっと毅然と指示を出さなければならない」「全ての状況を把握し、完璧な判断を下さなければならない」といった「あるべきリーダー像」に囚われ、理想と現実のギャップに苦しんでいました。かつての成功体験が、新しい役割における足かせになっているように感じられ、このままではチームも自分自身も停滞してしまうのではないかという強い危機感を抱いていました。
コーチングとの出会いと、静かな期待
このような状況を打破したいと考えたとき、友人からコーチングというものの存在を聞きました。それまでコーチングに対して漠然としたイメージしかありませんでしたが、第三者が対話を通じて自分自身の内面を整理し、行動変容を促すというアプローチに興味を持ちました。特に、誰かに正解を教えてもらうのではなく、自分の中から答えを見つけ出す手伝いをしてもらうという点に惹かれました。
コーチングを受けることで、この現状を打破し、リーダーとしての自信を取り戻したい、新しい役割で成果を出せるようになりたいと期待していました。具体的には、チームメンバーとの効果的な関わり方や、自分自身の役割の再定義について、クリアな視点を得られることを願っていました。また、漠然とした不安や焦りを言語化し、整理したいという思いもありました。
セッションを通じて見えた、自身の内なる声
コーチとの最初のセッションは、非常に穏やかな雰囲気で始まりました。私の話を丁寧に、一切否定することなく聞いてくださったことが、何よりも安心感につながりました。抱えていた悩み、特に「理想のリーダー像」と現実のギャップ、そしてそこから生まれる自信のなさについて、率直に話すことができました。
セッションが進むにつれて、コーチは様々な角度から問いかけをくださいました。「あなたが考える理想のリーダーとは、具体的にどのような人物ですか」「その理想は、誰かのモデルですか、それともあなた自身の内から生まれたものですか」「プレイヤーとして成功した経験は、今のリーダーの役割にどう活かせると考えますか」「チームメンバーは、今のあなたに何を期待していると思いますか」といった問いかけです。
これらの問いかけは、時に耳が痛いものでしたが、自分自身を客観的に見つめ直す貴重な機会となりました。特に印象に残っているのは、「リーダーシップには様々な形があります。あなたが考える『あるべき』形に囚われず、あなた自身の強みを活かせるリーダーシップの形はどのようなものでしょうか」という問いでした。
私は「リーダーは強く、全てをコントロールできる存在であるべきだ」という固定観念に縛られていたことに気づかされました。しかし、私の強みは、細部への洞察力や、物事を論理的に組み立てる力、そして何よりも、チームメンバー一人ひとりの能力を信じる気持ちでした。コーチとの対話を通じて、これまでの「自分が完璧にこなす」というスタイルから、「チームの力を最大限に引き出す」という新しいリーダーシップの形へと、思考をシフトさせていくことができました。
また、チームメンバーへの過干渉は、彼らへの不信感から来ているのではなく、私の側にある「失敗への恐れ」や「手柄を手放したくない」という無意識の抵抗から来ていることにも気づかされました。この内なる声に気づけたことが、大きな転換点となりました。
得られた成果と、自信の回復
コーチングを通じて、私はリーダーとしての「自分自身のスタイル」を見つけることができました。「完璧なリーダー」を目指すのではなく、自身の強みを活かし、チームメンバーを信頼し、彼らが自律的に動けるような環境を整えることに注力することに決めました。
具体的には、メンバーとの1on1の時間を増やし、彼らの考えや課題を深く聞くようにしました。また、以前は自分で抱え込んでいた業務や判断を、メンバーの成長を促す機会と捉え、権限を委譲する勇気を持つことができました。最初は不安もありましたが、メンバーが期待以上の成果を出してくれたり、自発的に課題解決に取り組んでくれたりする姿を見るにつれて、彼らへの信頼が深まり、同時に私自身の自信も回復していきました。
チーム内のコミュニケーションが以前より活発になり、新しいアイデアが生まれやすくなりました。私が全てを把握していなくても、チームとして課題を乗り越えられるという手応えを感じるようになり、停滞していたプロジェクトも再び動き出しました。数字としてチームのパフォーマンスが向上したことも、確かな成果として現れました。
何よりも大きな変化は、私自身がリーダーの役割を楽しむことができるようになったことです。以前は重圧とばかり感じていましたが、チームメンバーの成長を間近で見守り、共に目標達成に向けて進むことに、大きなやりがいを感じるようになりました。
コーチング体験がくれた、未来への羅針盤
コーチングを受けた経験は、仕事だけでなく、私の人生観にも大きな影響を与えました。一人で全てを抱え込むのではなく、他者を信頼し、協力を仰ぐことの価値を学びました。この学びは、家庭や友人との関係性にも良い影響を与えています。
また、自分自身の内面にある無意識の抵抗や固定観念に気づき、それと向き合う勇気を持つことの重要性を知りました。変化を恐れず、柔軟に自身の考え方や行動を調整していくことの大切さを学びました。
コーチングは、魔法のように問題を解決してくれるものではありません。しかし、自分自身が変化するための「気づき」を与え、その一歩を踏み出すための強力な後押しをしてくれるものだと実感しています。
これからコーチングを受ける人へのメッセージ
もしあなたが、私のように新しい役割や変化に戸惑っていたり、漠然とした不安を抱えていたりするのであれば、コーチングを検討してみる価値は十分にあると思います。
何を話せばいいのか分からない、自分にはコーチングを受けるほどの問題はないのではないか、と感じるかもしれません。しかし、コーチはあなたの話をただ聞いてくれるだけでも、抱えているものが整理され、気づきが得られることがあります。自分一人で考えているだけでは、どうしても同じ思考のループに陥りがちです。第三者の、しかもプロフェッショナルな問いかけによって、全く新しい視点が開ける可能性があります。
変化を乗り越え、自分自身の可能性を最大限に引き出したいと願う全ての方に、コーチングという素晴らしい体験をお勧めいたします。それは、自分自身の内なる声に耳を傾け、未来への羅針盤を見つけ出す旅となるはずです。